【分解】カメラの出っ張りの理由と防水性能を暴く「日本国内版 Xiaomi Redmi Note 9S」の内部構造を分析。

20/06/27

日本国内版Xiaomi Redmi Note 9Sを分解します。
カメラはなぜ出っ張り過ぎたのか? P2i防水ってどうなの? といったところを重点的に見ていきます。

背面ガラス

ガラスは両面テープで貼り付けられています。
接着力が尋常ではなく、剥がすというよりも引きちぎるようにガラスを分離させました。
この時点では格安感はあまり無くミドルクラスレベルの印象。クリーンに組み立てられています。

赤色部分がテープが貼られている場所。
カメラの周囲も両面テープが使用されていてMi note 10からグレードアップしています。
更にテープには切れ目が無く全周が完全に囲まれています。
防水対応のテープかどうかは不明ですが、ここに水の侵入経路はありません。

大変綺麗に仕上げられた3Dガラスです。
ガラスの厚さは0.7mmで裏面にシートが貼ってあるタイプ。ハイエンドモデルのガラスと何ら変わりありません。
ここにはしっかりコストをかけて安っぽさを感じさせないようにしています。

部品レイアウト

5020mAhもの大エネルギーを蓄える巨大なバッテリーが全体の56%を占めます。
ワイヤレス充電には非対応。

そして目につく多くの管理用ID。一般的なスマホに比べて明らかに多いです。
1つはIMEIでその他は部品のトレーサビリティをするためのIDと思われ、ここだけで計6個もの2次元コードが確認できます。
中でも珍しいのはFPCにまでIDが刻印されていること。(ただしFPCに振られたIDとは限らない)
このモデルはこれだけ多くのIDを処理できる高度な管理能力を持った工場でコストをかけて品質コントロールに力を入れて生産されている、と推測できます。

放熱シートの下には4本のFPC。

ネジの頭に貼られたお決まりのmiロゴ入りセキュリティシール。

サブフレーム

板金がインサートされたサブフレームを外すとメイン基板があります。
第一印象は「コネクタだらけ」。9個ものコネクタが並びます。
そしてこのサブフレームは基板の固定だけでなく多くの機能を有しています。

まずは3つのアンテナ。

2つ目は基板とレシーバーを接続するブリッジの役割。
サブフレームに貼られたFPCを介して基板の接点とレシーバーの接点を接続することにより、レシーバーと基板を重ねず配置することが可能になります。本体の薄型化の工夫です。

3つ目は放熱。
インサートされた板金は補強のためだけではなく放熱にも利用しています。
露出した板金に熱源と放熱シートを接触させています。

基板の熱をこの板金を経由して放熱シートに伝え、端末下方へ熱を導く放熱の中継として機能しています。

その放熱経路の途中に付着している導熱グリスと思われるもの。
本来塗られてあるべきものなのか、手違いで付着したものなのか分かりませんがどちらにしても半端です。

カメラ

4つのコネクタを外してカメラを取り出します。

カメラは全て独立しています。
メインカメラとマクロカメラは機械式オートフォーカスを搭載しているようです。

4800万画素のメインカメラの高さは6.3mm。

カメラの出っ張りの理由

メインカメラの下にアルミの板金が貼られています。厚さは0.5mm。
下に見える両面テープと合わせると0.6mmの厚さを持っています。
高さ合わせのスペーサーと思われますが、なぜわざわざ厚みを増すようなことが必要だったのでしょうか。

マクロカメラと深度カメラは基板に実装された板金カバーの上に乗っていて少し高い位置にあります。
メインカメラ下のスペーサーはこれらのカメラと高さを合わせるための底上げ板のようです。

基板をカットしてマクロカメラと深度カメラを埋め込めば出っ張りは最低でも0.6mmは低くできそうなのですが、ちょうど真裏に大きなトリプルカードスロットがあるために基板をカットすることができません。
カードスロットの位置を変更しようにも基板サイズが足りません。
板金カバーとその中にあるであろう実装部品を他の場所へ移動することでも低背化が可能ですが、本体の薄型化のためにインカメラとレシーバーを収めるスペースをカットしたことも手伝って実装面積を圧迫し、2つのカメラを基板上に乗せざるをえなかったと仮定するとこの不可解な構造の説明ができます。

つまり本体を薄くして出っ張りを増やすか、本体を厚くして出っ張りを減らすかのどちらかの選択になり、Xiaomiはカメラを出っ張らせてでも本体を薄くすることを選んだのでは、と推測します。

インカメラ

液晶パネルに空いた穴に挿し込むように置かれた1600万画素のインカメラ。

高さは5.1mm。
前面ガラスにレンズを近付けるために鏡筒が長く、パンチホールの径を小さくするため先端がかなり細くなっています。

フラッシュLEDは1灯。

基板

導熱グリスと銅箔シートでミドルフレーム側への放熱効率を高めています。
カメラの出っ張りの原因になったかもしれないトリプルスロットはここにあります。圧巻の大きさです。
NFCはアンテナ自体が無いためFelicaを含むNFCは非対応で間違いありません。

CPU上には導熱シートが貼られています。

大きな切り欠き、トリプルカードスロット、9個のコネクタ、12個のネジ穴によって実装面積が少なくなってしまったメイン基板。

カードトレイ取り出しピンの挿入穴にはゴムパッキンが取り付けられています。
ピンを挿し込むことで破れてしまうためここの防水性は期待できません。

キー

キーはゴムパッキンでフレームの赤塗り部分を封止してあります。
パッキンがあまり精度良く作られていないことと、FPCの周囲が止水できていないことから本格的な防水とまではいきませんが、濡れた手での一時的な操作や小さな雨粒の侵入くらいであれば防げそうです。
実装スイッチもはんだ部分が樹脂コーティングで浸水対策されています。

レシーバー

両面テープで接着されたレシーバー。

メッシュ部分に水を垂らしてみました。
撥水性があるのかと思いきや、少し振動を加えて数分放置したところ濡れ拡がってしまいました。

スピーカー

アンテナ、スピーカーを兼ねるサブフレーム。
スピーカーはエンクロージャータイプで大きさは標準的。
板金で補強され、大きな音をビビらせずに安定して出力できるユニットです。

ベッタリと指紋が付いていました。
工場内に素手で製品を触る人がいるようです。

スピーカー開口部はクッションで密着させています。
水圧には耐えらそうになく、スピーカーが防水対応かどうかも不明なためここも浸水に対して注意が必要な箇所です。

マイク

マイク穴もスピーカーと同様にクッションで密着させるタイプ。
光を当てるとメッシュで異物の侵入を防止していることが分かりますが防水は厳しそう。

サブ基板

2枚の基板を繋ぐFPCとアンテナ同軸ケーブル。

小さくまとめられたサブ基板。
バイブモーターはリニアアクチュエータ方式です。

USBコネクタとイヤホンジャック周りに簡易的なゴムパッキン。

USB、メインマイク、アンテナ、スピーカー、バイブモーターを中継。

バッテリー

バッテリーは2本の両面テープで強固に固定されています。
タブを引っ張って剥がすタイプのテープはバッテリーに負荷をかけることなく剥がすことができ修理を容易にします。
高額なこともありiPhoneをはじめとするハイエンドクラスの端末に使われるもので、このモデルは格安スマホながらコストのかかる部品を使用しています。

・モデル名:BN55
・PSEマーク取得のリチウムイオンポリマーバッテリー
・容量:5020mAh
・メーカー:寧徳新能源科技有限公司(ATL)
・サイズ:縦91×横65×厚さ4.65mm
この個体はリチウムイオンバッテリー製造大手のATL製でした。安全性はそれなりに配慮されていそうです。外観を確認する限りでは造りも綺麗。

ミドルフレーム

金属をインサート成型したフレーム。
恐らく金属部がアルミ、樹脂部がガラス入りポリカーボネートと思われます。

側面部の外側全周をプラスチックにすることにより加工コストを抑えています。

それでもタダのコストカットで終わらせないのがXiaomi。
金属蒸着面の一部をレーザーで粗らすことであたかもダイヤカットをしたアルミフレームのような意匠を作り出し、まるで金属そのものの仕上がりです。
これがプラスチック製だと気付いているユーザーがどれだけいるのでしょうか。

分解完了

背面のガラスを剥がすのがかなり大変なことを除けば分解の難易度はそこまで高くありません。
再利用のできない両面テープを多用していてそれらのリペアパーツを入手するのが困難なため、個人で修理できる範囲には制限があります。

防水性能

構造面での防水レベルは大目に見てもIPX5相当。これにP2iコーティング処理を加えることによって表層の撥水性を高め、水を侵入し難くしているのではと推測します。
ただし物理的に止水しているわけではないので高湿度や水圧に耐えるものではなく、水しぶきがかかったり瞬間的な水没への耐性がある、程度と考えて良さそうです。
また、皮脂等の汚れの付着によりコーティングの効果が低下することも考えられるため防水については過信は禁物です。

実際に水に沈めて防水性能を評価しました。

主要部品の重さ

ディスプレイ+ミドルフレームが最も重く91g。液晶ディスプレイはOLEDと比較して重くなる傾向があります。
バッテリーはさすがの重量級66g。
端末総重量212gの内フレームが43%、バッテリーが31%を占めます。

一見大型に見えるカメラも実はたったの5g。総重量の2%に過ぎません。

講評

今回もXiaomiの取捨選択の上手さが際立ち、あらゆる箇所でメリハリのある設計思想が垣間見える結果となりました。
カメラの出っ張りも様々な選択肢の中からXiaomiが出した一つの結論でした。
構造は極めてシンプルで、どこを見てもいかにも手を抜いたという所は見当たりません。

Redmi Note 9Sが強い商品力と低価格を両立できたのは、全世界の販売台数というスケールメリットだけではなく、端末設計におけるユーザー要求の正確な体現と、随所に光る素晴らしいアイディアがあったからこそだと言えるでしょう。