【分解】Nothing Ear(2)の内部構造をApple AirPods Pro2、Ear(1)と比較。

23/05/17

この記事はNothing日本公式ストアを運営するFastlane Japan株式会社から製品提供を受けて作成されました
記載の内容はHW/TECHNICALの分析による独自のものです。公式の見解ではありません。

2023年3月30日に発売されたNothingの完全ワイヤレスイヤホンEar(2)とEar(1)、Apple AirPods Pro2の3つのモデルを分解し、内部構造を比較します。

形状比較

3モデルともスティックタイプのデザインで出音口、メインマイク、ノイズキャンセリングマイクが同じ位置にあります。イヤーチップも含めてかなり似た形をしています。

空気を抜くためのエアベントも近い位置にありますが、Ear(1) / Ear(2)が2つの孔を持つのに対してAirPods Pro2は1つのみ。

フロント/リアアセンブリ

耳側にバッテリーとドライバーが集約されているのはAirPods Pro2と同じレイアウト。
Ear(1)はそれぞれがフロントとリアに別れています。

耳装着検出センサー

Ear(1) / (2)は耳側と側面の2つのタッチセンサーが同時に反応した時に耳に装着したと判定。and制御で誤動作を低減します。
AirPods Pro2はAppleが"肌検出センサー"と称する見たところ光学系の近接センサーを使用し、耳側にある長細い黒い窓越しに装着を検出しています。

インイヤーマイク

Ear(2)はハウジング内でドライバーと相対する位置にマイクがあります。Ear(1)は大胆にも出音口を半分塞ぐような形で縦置きに配置。この構造の違いによってEar(1)とEar(2)では音の通り道の広さに倍近く差があります。
AirPods Pro2は出音口直下に浮かぶように設置。大きなマイクを使用しながらも大口径の出音口を活かして十分な開口面積を確保しています。

メイン基板

アンテナを兼ねるプラスチック製カバーの下にある基板をコネクタでハウジング内へ接続。これはEar(1)と共通の構造です。
AirPods Pro2はひょうたんのような形のロジックボードにH2ヘッドフォンチップが搭載されています。
Ear(1) / (2)はステムエリアとスピーカー+バッテリーエリアが隔壁で仕切られていますが、AirPods Pro2にはそういった仕切りは無く同一の空間で繋がっています。

ノイズキャンセリングマイク

Ear(1) / (2)は基板の穴を通して裏面のマイクへ音を取り入れる構造。メッシュで異物侵入を防いでいますがコネクタが近いこともあり水気の侵入には注意したいところです。
AirPods Pro2はロッド状のアンテナを介して音を取り込みます。マイク穴に防水膜を使用し、高い防水性能を持っていることが伺えます。金属メッシュも変形防止のために裏から補強する念の入れよう。

コントローラー

ステムの内側に貼り付けた歪みセンサー。指で押されたことによる金属板の変形を検出してつまむ動作を判定します。このセンサーはとても敏感で僅かな歪みも正確に検出します。
Ear(1)は検出エリアを3分割したタッチセンサーをFPCに内蔵。
AirPods Pro2は歪みセンサーとタッチセンサーが一体になっています。

メインFPC

各モジュールと基板を接続する動脈のような役割をもつメインFPC。
Ear(1) / (2)はタッチセンサーの多用によって枝が伸びたような形状になっています。
これだけ長くて複雑な形状のFPCが小さなボディの中に収められていることに驚かされます。
Ear(1)とAirPods Pro2は2ピースの構成。

アンテナ

Ear(2)はシートタイプで、Ear(1)、AirPods Pro2はプラスチックのフレームとアンテナを兼用。
Ear(1)で基板とFPCに挟まれる位置にあったアンテナがEar(2)では最外層に移動し、アンテナの特性にも良い影響があったのではないかと推測します。

ハウジング

Ear(1) / (2)は透明部分と着色部分を一体成型し、継ぎ目の無いハウジングになっています。
似たような見た目をしていますが成型方法に違いがあります。Ear(1)は透明と白の2色の樹脂を一体成型後に内側を黒く着色。Ear(2)は透明、白、黒の3色の樹脂を一体成型しています。
この違いにより黒い部分の見た目が僅かに変化しています。
AirPods Pro2は全体的に薄肉で特にステム側は厚みが0.5mm程度しかなく、Ear(2)の0.8~1.4mmに比べて見た目にもその薄さは明らか。ハウジング一式の重さもEar(2)=1.32gに対してAirPods Pro2=0.83gと37%も軽量です。

ここで気になるのが音質への影響。
Ear(1) / (2)はフロントとリアを合わせたボディ全体をエンクロージャーとして使い、空間容量を大きくとって音質を向上させる構造になっています。ハウジングが音に影響しやすく、厚みをとって内部の容積を犠牲にする代わりに、音質調整を容易にします。
AirPods Pro2は耳側の壁面の一部のみを使用し、ハウジングと空間容量にほとんど頼らない構造になっています。高性能のドライバーと複雑なチューニングを必要とする代わりに小さな空間に収めることができます。
この真逆ともいえる音質へのアプローチが製品の性格の違いを最もよく表しているのではないでしょうか。

ドライバー

3機種とも大型のダイナミック型ドライバーを使用。
Ear(1)はカバーに空けられた5つの小さな穴から音を通す独特な形状で、Ear(2)ではリング状のカバーに変わり開口面積が大きくなっています。
これらのカバーはドライバーを固定するブラケットの役割があり、固定方法が異なるAirPods Pro2は遮るものが無く開放的です。

エッジと振動板部分が一体になった一枚もので、極薄のプラスチックのような少しパリパリとした感触がEar(1)と共通しています。
Ear(1)はらせん状の溝が入った太めのエッジが特徴的です。
AirPods Pro2はEar(1)同様の溝が入ったエッジで、薄膜ゴムのようなプニプニとした柔らかい素材です。振動板部分は硬めの別素材になっています。
3つの中でAirPods Pro2のマグネットがずば抜けて強力で、大音量や極低音でもクリアで締まった音が期待できそうです。
さらにAirPods Pro2は内磁型の構造をしているのではないかと推測します。

バッテリー

Ear(1)Ear(2)AirPods
Pro2
容量
(mAh)
313349.7
直径/厚さ
(mm)
10/3.710/3.511/5
重さ
(g)
1.000.781.38

AirPods Pro2が最も容量が大きく、重さはEar(2)の2倍に迫ります。
Ear(1) / (2)はひとまわり小さなバッテリーが本体の軽量化に貢献しています。
内部の空間の都合でバッテリーサイズは制限されるわけですが、AirPods Pro2はエンクロージャー容積を最小限に抑えたおかげで大型のバッテリーを収めることができたようです。

分解完了

小さなボディの中でも明確な構造の違いがありそれぞれの設計思想が明らかになりました。
Ear(1) / (2)は単一の方向に一つ一つ部品を積み重ねていくような2次元的設計とスタンダードなスピーカー構造によってコストを抑えつつ不安定要素を排しました。
AirPods Pro2は部品がまるで浮遊しているかのようなフリーレイアウトの3次元的な設計。専用設計の部品と高度な技術を用いてあらゆる隙間に隅々まで部品を詰め込んで空間を効率良く使用し、インテリジェンスを感じる製品に仕上がっています。一切の無駄を削ぎ、無意味なスペースがありません。
だからといってAirPods Pro2の外装を透明にしたところで難解な配置の部品を固定するために塗りたくられた大量の接着剤が露出するだけでカッコよくはなりません。
Nothingは従来通りの積み重ね設計とすることで透明カバーの中に構造的美観を閉じ込めることに成功しています。

ケース

続いてケースを分解します。
AirPods Pro2はステムを縦に差し込むように収納し、Ear(1) / (2)は平置きで収納するスタイル。ヒンジ部分の意匠に共通点がありますがそれ以外は全くの別物です。

内部レイアウト


Ear(1) / (2)はコの字型の基板に食い込むようにバッテリーが収められています。
Ear(2)はバッテリーが短くなったことでケースそのものが小型化していることが分かります。Ear(1)では2枚重ねだった基板も1枚に集約されました。
AirPods Pro2はイヤホンの挿し込み方向に順じた縦置きレイアウト。2つのバッテリーで基板を挟むようにフレームに固定し、アウターシェルの内壁に固定されたサブパーツ類がFPCで繋がっています。

無接点充電用ワイヤレスコイル

Ear(1) / (2)のワイヤレスコイルは競技場のトラックのような横長形状で、金属の一枚板のように分厚くてカチカチ。
AirPods Pro2は正方形に近く、アウターシェルを覗いてみるとコイルの両隣にMagSafeデバイスを吸着する大きなマグネットがあります。

10本1束のより線を2層で巻いて接着剤で固めてあります。Ear(1)は2本1束で2層巻き、AirPods Pro2は1本1層巻きです。

基板+給電端子

両面実装のコの字型の基板が1枚。2枚の基板を重ねてヘッダで接続するEar(1)とは異なる単純な構成に変更されています。
給電端子はFPCに立てられたピン端子をケースの裏側から突き出す形。
AirPods Pro2はメインの基板とワイヤレス充電の機能を集めたサブ基板に分かれた2枚組で、メイン基板にはアンテナが内蔵されています。

止水構造

USBコネクタ、ボタン、給電端子周りをゴム製パッキンで保護。
外装カバーも接着剤で封止してあり、部品が剥き出しのEar(1)に比べて水や異物の侵入への耐性は格段に向上していそうです。そんなEar(2)の保護等級はIP55。
AirPods Pro2もLightningコネクタとボタン周りにパッキンがあります。イヤホンへの給電端子部は接着剤を充填して一段と強固に守られています。内部に通じる全ての接合部をパッキンと接着剤で完全に塞いであり、何かが侵入できるような隙間は見当たりませんがApple公式の仕様はIPX4となっています。

バッテリー

Ear(1) / (2)は細長の小柄な単体バッテリーをリード線で基板に接続しています。
AirPods Pro2は縦置きレイアウトの隙間にできる限り大きなバッテリーを詰め込むために2つのバッテリーを並列で接続。基板へはコネクタで接続します。このバッテリーには珍しくAppleロゴが印字されていません。

Ear(1)Ear(2)AirPods
Pro2
容量
(mAh)
570485523
(/2pcs)
サイズ
(mm)
縦:45.4
幅:13.8
厚:8.2
縦:36.7
幅:14.5
厚:7.9
縦:25.4
幅:16.5
厚:4.8
(/1pcs)
重さ
(g)
9.47.88.3
(/2pcs)

ヒンジ

フタがポヨンと開き、パタンと閉まる動力を生み出すのは「文」の字状のダブルキックばね。シングルキックばねのEar(1)よりも耐久性の向上が期待できます。
AirPods Pro2は板ばねを使用。フタの中に構造を隠せる利点を活かしてバネの可動範囲を大きくとり、薄板のばねならではの柔らかく滑らかなフタの動きを実現しています。
3モデルとも羽根部分にはアルミを使用しています。

分解完了

Ear(2)のケースはEar(1)から見た目以上の変化があり、防水防塵構造の強化が最大の変更点です。軽く雨に濡れたり水飛沫がかかったくらいでは簡単に壊れてしまうことはなさそうで、長く安心して使えるようになりました。
値上がりした分はこういった部分にも反映されているようです。
AirPods Pro2はEar(1) / (2)とは全く異なる構造で、これぞAppleと言わんばかりの独自設計が詰め込まれていました。一つ一つの部品の精度が高く、それらを美しく配置しているのが印象的。
しかしこれでもかと大量に使用された接着剤がそんな印象を消し去ります。
隅々まで盛られた強力な接着剤によって非破壊で分解することは不可能に近い造りになっています。破壊覚悟だとしても分解はおろか最初のカバーを外すことすらも容易ではなく、その難易度はEar(1) / (2)の比較になりません。
修理不可なのは当然のこととして、処分目的で回収した製品をAppleがどのように廃棄処理するのか気になるところです。
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