【分解】iPhone15 Proは新素材と新構造を採用。世界を虜にするスマートフォンの内部構造。

23/10/01

iPhone15Proの分解

2023年9月22日に発売されたApple iPhone15 Proを分解します。

ディスプレイ

ディスプレイを開けたところ

USB-C横のネジを外してディスプレイをパカッと開く構造はこれまでのiPhoneと同様。
強力な防水両面テープを剥がしてディスプレイを開けると整然と並べられたパーツが姿を現します。

基板カバー

金属製の基板カバーにはフォーム材が広範囲に貼られています。
主にコネクタの保護と固定を目的としたものと考えられますが、空気を多く含むフォーム材は基板からディスプレイ側への放熱を阻害してしまい、熱拡散の効率を低下させる可能性があります。

ディスプレイモジュール

2つのコネクタを外すと早くもディスプレイが分離。この構造によってiPhoneはディスプレイの修理・交換を容易にしています。
ディスプレイの広範囲に貼られた熱拡散シートで放熱を補助します。

超極小ネジの使い分け

特殊ネジ

基板カバーを外すだけでもこれだけの種類のネジが使用されています。
誤差かと思うような僅かな長さ違いも頭の違いでちゃんと別のネジであることが分かります。
修理をするためにはこの先更に増える膨大な種類のネジの差分を認識し、どこにどのネジがあったのかを正確に把握しなければいけません。

対応するドライバー(iPhone15は未確認)

内部まで美しいデザイン

美しくデザインされた内部

各パーツが目を見張るほどきれいに並び、スマートフォンとは思えない美しい内部デザインになっています。
まるでMacBookの中を見ているようです。

スピーカーとバイブモーター

スピーカーとはプティクスバイブモーター

贅沢にスペースを使用した大型のスピーカーとバイブモーター。
スピーカーの開口部はオレンジ色のゴムパッキンでフレームと接触させて防水構造をとっています。
HAPTIC ENGINEと名付けられたバイブモーターは一般的なスマートフォンと比較して2倍ほどの大きさがあり、iPhone特有の強力で明確な振動を生み出すパワーを持っています。

L型のバッテリー

L型バッテリー

iPhoneの特徴の一つであるL型のバッテリーはAndroidスマートフォンと比較すると小さく軽量です。
これはOS、ハードウェア、ソフトウェアの多くを自社開発することによって得られる合理的なシステムで省電力化し、大容量のバッテリーを必要としないためだと考えられます。
バッテリーの小型化よって空いたスペースは大きくパワフルなスピーカーやTrueDepthカメラなどのデバイスを納める空間として活用されています。

バッテリーの裏表

・モデル名:A3011
・PSEマークあり (Apple Japan)
・容量:3274mAh
・メーカー:Sunwoda (欣旺達)
・サイズ:縦88×幅76×厚さ5.2mm
・重量:44g

リアカメラ

3眼リアカメラ

メイン、望遠、超広角の3つのカメラが一つにまとめられた大型のモジュール。
レンズの鏡筒部分には光の反射を抑える加工が施されています。

カメラモジュールの大きさ比較

カメラモジュールとガラスを並べてみれば巨大なカメラ部の出っ張りも見掛け倒しではないことが分かります。

LiDARスキャナ

LiDARスキャナモジュール

LiDARスキャナは望遠カメラの下に設置。
レーザーの照射部と受光部を持ち、暗所でのフォーカス調整と正確な3Dスキャンを実現する光学センサーです。

イヤースピーカー

イヤースピーカーユニット

コーナー部の一角を占有する一段と大きなイヤースピーカーはメディア再生と通話の兼用。
潤沢な空間を活かして豊かで厚みのある音質の大型のエンクロージャースピーカーです。

TrueDepthカメラ

TrueDepthカメラモジュール

IRプロジェクター、IRカメラ、12MPフロントカメラが並ぶTrueDepthカメラモジュール。
IRプロジェクターで顔に照射した赤外光をIRカメラで読み取ることでFaceIDを動作させています。

交換しやすくなった背面ガラス

交換しやすい背面ガラス

背面ガラスは両面テープで外周部分だけを接着する構造に変更されました。
接着剤でガチガチに固められたガラスを地道に剥がすあの作業をする必要はありません。接着剤を塗り広げる作業も不要です。修理のしやすさが格段に向上しました。
ガラスが割れてしまってもディスプレイと同様にパネルを入れ替えるだけで修理できるようになったのです。
基板裏面のコネクタからはMagSafeワイヤレス充電コイルとTrue ToneフラッシュLEDへのケーブルが接続されています。

基板の取り外し

ここで「基板を外すには毎回ガラスを外す必要があるのか?」と考えた人もいるのではないでしょうか。
大丈夫です。背面ガラスを剥がさなくても基板をめくって取り外すことができます。

ロジックボード

基板

これまで見てきたどのスマートフォンよりも小さな基板。
表面は15個ものコネクタでびっしりと埋め尽くされています。

iPhone15Proの基板

インターポーザーと呼ばれる中間接続層を介して2枚の基板を重ねた基板になっています。
両面実装基板の2枚重ね、つまり合計4面分の表面積を持ち、厚みを犠牲にする代わりに極小サイズを実現しています。
この基板は日本国内で流通しているA3101のもので、物理SIMコネクタがあり、ミリ波アンテナの接続部がありません。

2階建てのネジ

フラットプラスの特殊ネジ

iPhoneの基板固定といえばスタンドオフスクリューと呼ばれる「ネジにネジを打てるネジ」。一つ目の部品を固定した上に別の部品を固定することができます。
ドライバーも特殊なものを使用します。

対応するドライバー(iPhone15は未確認)

USB-Cコネクタ

USB-Cコネクタ

コネクタ周りの構造はLightningの時と同等。
これまでのモデルで培われた基本構造を踏襲してコネクタだけをUSB-Cに入れ替えた、といった変更です。
コネクタ部品の色は本体カラーに合わせて用意されていて、このナチュラルチタニウムの場合はベージュのコネクタが使われています。

ミリ波アンテナは無い

ミリ波アンテナ部分

電源キーの下の辺りにはミリ波アンテナの格納場所がありますが、日本版A3101はダミー部品で塞がれるのみでアンテナは存在しません。
海外の一部地域で販売されているミリ波対応版ではここにアンテナが取り付けられています。
アンテナ有無によってフレームの形状も異なるため修理の際は交換部品の選定に注意が必要です。

側面キー

音量キーと電源キーの構造

金属製プレートに貼り付けられたキースイッチケーブル。
押し込まれるスイッチを頑丈なプレートでしっかり支えてカチッとした押し心地をサポート。
その他の部品はアンテナケーブルとディスプレイを保持するクリップです。

キーの構造

キースイッチはゴム製のOリングを使用した防水構造。
キーの動きを安定させるCの字状のワイヤーは歴代のiPhoneに採用されているもので、この3ピース構造はその完成度の高さからiPhone7以降ずっと変更されていません。

サブマイク、アンテナFPC

基板から各部のアンテナを接続するFPC。片隅にサブマイクがマウントされています。

チタニウムフレーム

チタニウムフレーム

こうしてほぼ全ての部品が取り外されたフレームはステンレスから変更されたチタンの恩恵もあって30gと軽量。クリアTPUケース1枚分相当の軽さです。

アルミとチタンの拡散結合

実はチタンは外周部分のみ。ぐるりと一周バンド状に巻き付けたような形でその厚みは1mmほど。内部のコアフレーム部分はアルミです。
色を塗り分けたかのようにハッキリと見える線がアルミとチタンの境界で、2つの素材を拡散接合という技術でくっつけています。

フレーム全体としてははチタンバンド+アルミ枠+アルミベースプレートの3ピース構造。
チタンを拡散接合した枠にベースプレートを溶接して削り出しのフレームにも劣らない高い剛性を得ています。
溶接部の断面を見るとしっかりと深く溶融している様が確認できます。

放熱性を考える

CPUとRAMの発熱は部品を介して外へ放熱されますが、iPhone15 Proではいくつかの構造的要素が放熱の効率を低下させているかもしれません。
目立つところで言えば基板カバーに貼られたフォーム材とCPUの真裏が空洞であること。これの意味するところは熱源に一番近い場所を直接的に別部材へ導熱していないということです。
CPUの真裏の空洞は背面ガラスへ繋がるコネクタを納めるスペースで、背面ガラスを外せるようにしたことに伴ってできた新しい形状です。
フレームが穴だらけで熱の逃げ場が少ないことも特徴的です。
と、こうして見ると他社スマートフォンに比べて放熱設計が貧弱に見えてしまいがちですが、ハードウェアの放熱に頼らず電力の制御や効率を徹底し、ハードとソフトのバランスで熱設計をするiPhoneならではの構造といえるでしょう。

分解完了

iPhone15Proの分解

大型の部品が多く、意外にも部品は少なめ。小さな部品がチマチマと外れていくのではなく一つ一つがガバッと外れていきます。両面テープの使用も少なく分解しやすくなっています。

今回のiPhoneも従来の内部構造に倣って変更点を最小限に留めつつ、背面ガラスを外しやすくしてメンテナンス性を向上させる新しい構造を取り入れました。
ただし自分で修理するのは止めた方が良さそうです。
あくまでも分解がしやすい構造になっただけであって、性能を維持し再生させるための分解・組立に要する知識は専門性を一層増しています。昔のiPhoneと違って気軽に直せるような物ではありませんでした。
割高でも正規店で修理することを推奨します。

過去モデルの構造を丁寧に引き継ぎながら緻密に修正と改善を繰り返してきたiPhone。これまで見たiPhoneで最も美しい構造になっていました。
こうして内部に触れてみると端末価格に対する印象は「むしろ安いくらい」。
これだけ高度で精密なハードウェアにiOSの完成された体験を付けて16万の値付けができるメーカーが他にあるだろうか?と思うのです。

今回の分解に使用したモデル