【分解】中身が見えるNothingの完全ワイヤレスイヤホン「Ear(2)」を分解

この記事はNothing日本公式ストアを運営するFastlane Japan株式会社から製品提供を受けて作成されました
記載の内容はHW/TECHNICALの分析による独自のものです。公式の見解ではありません。

2023年3月30日に22800円で発売されたNothingの完全ワイヤレスイヤホンEar(2)を分解します。
以前公開した内部構造の比較記事に記載しきれなかった内容を補足した個別版です。

プラスチックレスパッケージ

Ear(2)のパッケージ

箱は耳を引っ張って破って開けるタイプ。取り外した蓋は被せておくことができます。

梱包資材を含めて全て紙製。本体を包んでいる保護シートもトレーシングペーパーのような手触りで、紙もしくは環境対応した素材のようにみえます。
難しい廃棄のことを意識すること無く気持ちよく使い始めることができます。

イヤホン本体

Ear(2)のイヤホン本体

前モデルEar(1)を踏襲したスティック型のデザイン。ステム部分が透明で内部構造が見えるようになっています。

イヤーチップを本体の突起にムニュッとねじ込むタイプ。多くのイヤホンで採用されるスタンダードな構造です。
よく見るとL側の出音口カバーの隙間からは接着剤のようなものがはみ出していました。

イヤーピース

Ear(2)のイヤーピース

長穴タイプのイヤーピースが3サイズ、各1組ずつ付属。

フロント/リアアセンブリ

接着剤で固定されたハウジングを開けるとフロントとリアのアセンブリがFPCで繋がった状態になります。
耳側にドライバーとバッテリーがまとめられたレイアウトです。

バッテリーホルダ

ドライバーとバッテリーの隔壁になるバッテリーホルダ。メッシュが貼られている部分は通気口になっていてフロントとリアの空間を繋いでいます。

インイヤーマイク

出音口から少し入った所にフィードバック用のマイクがあります。
音質調整、イヤーピースのフィッティングの把握などに使用していると思われます。

インイヤーマイクを使って個人に合わせた音質にカスタマイズすることができます。
“Nothing X"アプリを使って聴力検査のようなテストを何度か行うと使用者の音の聴こえ方を学習し、音を補正して最適なサウンドにチューニングします。
実際にやってみると音が激変。その効果の強さも調整可能で、Ear(2)はこの機能を使ってこそ真価を発揮します。

耳装着検出センサー

Ear(2)の耳装着検出センサー

側面部分と耳側の面の2箇所にシート状のタッチセンサー。
2つのセンサーが同時に反応した時に耳にのみ装着したと判定するand制御で誤検出の低減を図っています。

ステムカバー

ステムカバーも接着剤で固定されています。
接着剤は薄く均一に塗られ、はみ出しも不足している部分もありません。接着剤で固定されていると認識させないほどの精密な塗布によって綺麗な透明カバーの意匠を実現しています。

メイン基板

Ear(2)の基板

メイン基板はコネクタでハウジング内へのモジュールに接続されます。
ステムの先端にある通話用のメインマイクの保護は簡易的な防塵メッシュのみのため浸水には注意が必要。
シルバーのブロックはイヤホンを充電ケースに固定するためのマグネットです。

基板カバー・アンテナ

Ear(2)のアンテナ

デザインの顔になっている網目模様のシートはアンテナ部品です。
LとRを識別する丸いインジケーターは塗装ではなくステッカー。表面にエンボスが入っていて少し厚みがあり、質感にこだわって作られたものです。
先端の金属製パンチングメッシュは剥がしてみても何かがあるわけではなく装飾のための部品でした。

ノイズキャンセリングマイク

Ear(2)のノイズキャンセリングマイク

基板の穴を通して裏面のマイクへ音を取り入れる構造。
金属製のカバーの裏面に貼られたメッシュでマイクへの異物の侵入を防ぎます。ゴム製パッキンはステム内への異物の侵入を防いでいます。
ここはすぐ隣にコネクタがあることから浸水には気を付けたいポイントです。

ノイズキャンセリング用マイクの開口部はEar(1)と違いがあります。
Ear(2)では金属製カバー全体が露出していて、Ear(1)はステムカバーに空けられた一つの穴から内部に音を取り込む形をしています。

感圧センサー

Ear(2)の感圧センサー

感圧センサーと充電端子が一体になったサブFPC。
ステムをつまむとセンサーに取り付けられた金属板が変形し、その歪みを検知しています。

この感圧センサーによってステム部分の単押し、長押しの操作を可能にしています。
“Nothing X"アプリを使用するといくつかの操作をカスタマイズすることもできます。

メインFPC

バッテリーとドライバーが繋がったメインFPC。
複雑な形状のFPCは両面テープと接着剤で各部に固定され、組み立て作業が複雑であることが想像できます。
しかし目立った不備は見当たらず練度のある工程で製造されていることが伺えます。

バッテリー

Ear(2)のコイン型リチウムイオンバッテリー

コイン型のリチウムイオンバッテリーで、ショートを防ぐ絶縁処理を伴って電極を引き出しています。
・モデル名:1033S1(?)
・容量:33mAh
・メーカー:VDL Electronics Co., Ltd.
・サイズ:直径10×厚さ3.5mm
・重量:0.78g

ドライバー

Ear(2)のダイナミック型ドライバー

エッジと振動板部分が一体で極薄のプラスチックのような少しパリパリとした感触をしています。
可動部の有効径は約9.6mm。

出音口カバー

メッシュ付きの金属製のカバーはプラスチック製のハウジングにアンカーを食い込ませるように固定されています。
分解したR側には接着剤は使われておらず、L側に接着剤と思われる固形物のはみ出しがあったことには疑問が生じます。

分解完了

3cmにも満たない小さな空間にたくさんの部品が詰め込まれていました。ごく限られたスペースであってもパッキンやメッシュを用いて達成した防水等級はIP54。防塵を意識していることが分かる設計になっていました。
また、公式の仕様によると基板にはリサイクル素材を使用しているとのこと。プラスチック不使用のパッケージだけでなく部品に再生材を使用して環境への配慮を怠りません。
こういった製品を選択することで環境負荷の低減に貢献できるという小さな楽しみも感じることができます。

ケース

厚みのある透明プラスチックで覆われたケースはイヤホン同様に透け感のあるデザイン。
中がどうなっているのか見えているのに開けることが楽しみになる不思議な感覚があります。
側面にType-Cコネクタとコントロールボタンを配し、ワイヤレス充電に対応。内蔵のバッテリーは最大30時間分の電力を蓄えることが出来ます。

背面カバー

底面にあるカバーは強力な接着剤と3ヵ所のツメで固定。
基板室は接着剤で完全密閉されています。

ワイヤレスコイル

長丸形状の充電用ワイヤレスコイルは接点基板を通じて基板と接続。
Qi規格に準拠した2.5Wの充電を可能にするコイルです。

線径0.1mmの細線を10本束ねたより線を巻いてあります。厚さ方向に2重巻きになっていて接着剤で固めてられています。

基板+給電端子

回路は基板と給電端子FPCで構成されています。
透明の枠はイヤホンが収まるキャビンとケース全体のフレームの役割を果たします。

給電端子はFPCに立てられたピン端子をケースの裏側から差し込んでホルダーで固定。
基板部分には通知用の小さなチップLEDが2個マウントされています。

バッテリー脱落の懸念

ケースにバッテリーを固定する両面テープを簡単に剥がすことが出来てしまいました。
テープの他に保持するための構造も無く、落下や衝撃でバッテリーの固定が外れる安全性の懸念があるようにみえます。
格納スペースにはゆとりがあるもののガタガタと大きく動ける程ではないため深刻な状態ではなさそうですが、強い衝撃には注意して使用したいところです。

飾りカバー付きのマグネット

充電端子横の金属部品はイヤホンを保持するためのマグネット。
露出する面に鏡面磨きの金属製カバーが貼り付けられています。
欠けやすいマグネットの保護、表面を意図した形状に整える、ピカピカの表面仕上げにする、といった役割の部品と思われ、デザインのためにコストをかけて小技を効かせています。

簡易防水防塵構造

USBコネクタ、ボタン、給電端子周りをゴム製パッキンで保護。
背面カバーの接着による封止も含めて全ての開口部で何らかの防塵構造をとっていて、仕様上ではIP55の防水等級となっています。

基板

両面実装の1枚基板。大きなチップは根元を補強してあります。
バッテリーの接続部は絶縁体でシールするなどの保護があっても良かったように思います。

バッテリー

ハイチュウを押し潰したような形状のバッテリー。
+線、-線と温度管理のための信号線の計3本を基板にはんだ接続します。
・容量:485mAh
・メーカー:VDL Electronics Co., Ltd.
・サイズ:縦36.7×幅14.5×厚さ7.9mm
・重量:7.8g

ヒンジ

アルミ鋳造製のヒンジをダブルキックばねで作動させる構造。
ばねは「文」の字のような面白い形をしています。

バックル

フタとケースの先端部分に接着固定されたアルミ製バックルは閉めた状態で凹凸が噛み合ってフタのズレを抑えます。
落とした時などにヒンジが変形することを防止する破損対策の意味合いもあるかもしれません。大きなフタを守るための補助部材です。

分解完了

Ear(2)のケースの分解

小型軽量を目指すのではなくNothingの世界観の具現化を強く意識して設計されている印象。ケースの厚みや余分な空間など無駄に見えるところはデザインのために使われているという見方をすれば理解することができます。その結果他には無い存在感を放つ製品に仕上がっています。
簡易的な防水防塵構造を持ち、軽い水濡れくらいであれば浸水の心配も無く安心して使えて快適性も上々。
ただしバッテリーの固定に若干の不安があり、できるだけ強い衝撃を与えたりしないように注意した方がよさそうです。

Nothingが作ったスマートフォンPhone(1)の分解はこちら