【工作】JLCPCBのCNCサービスを利用して自在アーム式ツールトレイを製作
スムーズにアームが動き、止めたいところでピタリと止まるツールトレイを自作しました。
アームの他にも三脚などと組み合わせて作業スペースの上空を活用する汎用トレイです。
3Dモデリング
譜面台をモチーフにしたデザインで3Dモデリングを作成。
アームとの接続部はカメラねじと3つのピン穴で構成されるARRI規格タイプの回転止め構造で市販のカメラアクセサリに装着できるようにしました。
薄口のトレイと肉厚のフレームの2ピース構造で強度と軽さの両立を図ります。アームの許容重量を考慮して軽量に設計し、計算上の重量は約260g。
また、ロッドシステムにも接続できるように機能拡張用のねじ穴も設置。
素材と仕上げ
6000系アルミの表面をブラスト処理で軽く粗し、アルマイト処理で着色。
外注業者の選定
過去に依頼したことのある業者を含め国内の加工業者数社に見積もりを依頼するも、加工に何かと制約が発生して設計通りに作成できる業者は見つかりませんでした。
国内での加工には早々に見切りをつけて海外で個人向けの小ロット生産に対応するJLCPCB(jlcpcb.com)を利用することに。
発注
JLCPCBのCNCサービスの発注は見積もりと支払いの2ステップ。
オーダー画面で①CNC Machining→②3Dデータをアップロード→③材料や仕上げを選択→④リクエストという流れで見積もりを依頼すると早い時で2時間ほど、遅い時でも翌日中には回答が来ます。提示された料金を確認したら支払いを実行して発注は完了。
処理は全てオーダー管理画面上で進み、人を相手にする面倒なやり取りは一切ありません。
操作画面が分かりやすくて発注も支払いも簡単です。
生産状況が見える
生産が始まると注文したパーツごとに状況が細かく分かるようになっていて、進んでいくプロセスをリアルタイムで確認できます。
よく見るとまとめて通過登録させたようなところもあったりしてあまり厳密ではなさそうですが、待っている間も製品が出来上がっていく様子を想像して楽しむことができます。
部品の到着
発注した日から14日で到着。(製作7日、集荷待機2日、輸送5日)
今回は配送方法にOCSを選択しました。少し時間はかかりますが送料が安くANAグループの国際輸送サービスという安心感があり、追跡も日本語サイトで見やすいです。税関通過後はクロネコヤマトに引き継がれて運ばれてきました。
フレーム
寸法も指定通りに収まっていていて精度も上々。
手触りもサラサラと気持ちよく狙い通りの半艶で綺麗に仕上がっています。
ねじも問題無くスルスルと回ります。
トレイ
トレイも寸法通り。落ち着いた明るさのグレーとしっとりとした光沢感が綺麗。
外形、穴共にバリ無く仕上がりっています。切断面にもブラスト加工が入っていて曲げもしっかり直角が出ています。
薄板の板金は品質が不安定?
全体が大きく反っていて変形量は大きいところで3mm程ありました。このままでは使用できないので矯正してから使います。
表面には1~2mm程度の小さなへこみが数か所と、曲げ加工でついたと思われる線キズ。
光の当たり方で見えたり見えなかったりする程度のものですがフレームに比べると品質が劣ります。
JLCPCBの得意な加工と苦手な加工
得意 | |
・ブロックや厚みのある板の切削 | 寸法、精度、外観良し |
苦手 | |
・薄板の板金加工 | 変形、傷 |
・円柱など丸物の切削 | 寸法は出ているが加工が粗い、小径品では軸ズレも大きめ |
・非貫通のねじ穴 | 切り粉が残っていてねじが回らない、底面が切りきれていない |
仕上げの注意 | |
・アルマイトの電極痕 | 深い傷がつく |
・ブラスト処理後のばらつき | 同じ番手でも部品ごとの光沢の差が出やすい |
JLCPCBの金属加工の品質には傾向があり、苦手そうな加工をできるだけ避ける設計をするようにしています。
特に気を付けてほしいことは見積もり依頼の時に備考欄で伝えることもできますが、多少の不具合が出る可能性に留意しておく必要があります。
トレイに布貼りをする
クッション兼滑り止めのために東レのウルトラスエードを両面テープで貼りつけ。これで目立つ傷も見えなくなりました。
補助固定用のテープを貼る
トレイのバタつきを防止するための両面テープを貼りつけ。
剥がそうとすれば剥がれる接着力の弱粘着タイプを使用し、後々トレイのサイズ変更をする時などに分解がしやすいようにしています。
組み立て
フレームにトレイを貼り付けたら2本のネジで固定。
固定ネジにはデザイン性の高いキャップボルトを使用。
トレイ部分の完成
金属の硬質な雰囲気を持ちつつ、薄く軽やかな印象に仕上がりました。
撓むこともなく剛性も十分です。
角度の調整機構
角度の調整機構には市販のカメラアクセサリを使用します。
関節部分のねじを緩めることで角度の調整ができ、任意の角度でねじを締めれば完全固定できます。
アームに取り付け
アーム部分は市販のマイク用ブームアームを流用。先端の取り付け部に3/8→1/4変換ねじを入れ、トレイを装着して完成です。
後ろ姿もイメージ通り。
思った通りの使用感
軽い力でスッと移動させれば狙った位置でピタッと止まり、そこから下がってきたり角度が変わったりすることも無く安定しています。
4箇所の可動部があらゆるポジションをカバーし、アームの自動水平維持機構がトレイの角度を常に一定に保ちます。
欲しい時に近くに寄せ、不要な時は離しておくという動作を瞬時に行えます。
こうして工具などを浮かせておくことで作業中の手元のスペースを広くとることができます。
ウルトラスエードを貼ったおかげでガチャガチャせず物を置く時も上品なタッチで心地よく、繊細な作業の気を散らしません。
小物置きとしても
トレイを水平にすれば小物置きとしても使用可能。
散らかりがちな作業スペースにクリーンなエリアが追加され、傷を付けたくないものや汚れを嫌うものなどを置いておくことができます。
三脚にも装着可能
固定部がカメラねじのため三脚にも直接取り付け可能で、重量物を乗せたりタブレットスタンドとして使用することもできます。
JLCPCBの素晴らしいユーザー体験
発注が完全にシステム化されていてやりとりが機械的に進み、何もかもが明瞭でストレスがありません。
分からないことがあればオペレーターにチャットで24時間いつでも質問できます。オペレーターはいつも前向きでユーザーの要望に応えようと動いてくれる姿勢が好印象。英語が苦手でも問題ありません。絵や画像を使って伝えれば意味をくみ取ってくれます。
CNCサービスを開始してまだ1年にも満たないこともあってwebサイトの動作が少し不安定なところがあったり、製品の品質がもう一歩なところがあったりしますが、他では断られるものも加工してくれます。
思いついたものをそのまま作ってくれる、それだけのことを当たり前のようにやれる業者は実は多くありません。
“Accelerating Your Innovation"というキャッチコピーが示す通り、ものづくりの楽しさを呼び覚まし、イノベーションに繋がっていくきっかけになるかもれません。
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